少し長文です。
ここ数ヶ月、田坂和昭と会ってました。会って色んな話をした。近々(たぶん年初くらい)出版される彼についての単行本のためです。
御存知の通り、田坂は無毛症です(原爆とは無関係です)。それゆえ、特に子供の頃は辛い思いをたくさんしました。
いや、したはずです。僕は彼本人ではないから、ちょっと彼の人生を覗き見たからと言って、気安く「わかる」なんてことは言えません。
でも僕もまた僕なりに色んな思いをしながら生きてきたから、彼が辛い思いをたくさんしただろうことを察することはできます。自分の経験を基に、自分ではない誰かのことを理解しようと努めること、つまり「想像する力」によって、察することくらいはできる(察するだけではなく、思いやることができます。想像力とはそういうものだと僕は思っています)。
そして、誰かの話を一生懸命に聞き、想像し、理解しようと努めることは、自分自身を反芻するということでもあります。きっと辛い思いをしたんだろうなと想像することは、僕はどうだっただろう?と自分を振り返る作業抜きには成り立たない。
だからこの数ヶ月間、彼の話を聞きながら、僕は彼の人生をなぞるだけでなく、僕自身の人生を辿り直す時間を過ごしました。
もちろん、人生には色んなことがあります。だから、それは楽しいだけの時間ではありませんでした。楽しい、というよりは作業としてはむしろ苦しいといった方がいいかもしれない。
でも、それは決して嫌な時間ではありませんでした。いま、こうして生きている僕にとって自分自身の人生は、やはりかけがえのない愛しいものだったからです。
誰かと比べて素晴らしいとか、うまくやってきた、というようなものではないにしても、あの深い井戸の底で半べそかきながら両手をぎゅっと握り締めて耐えた孤独も、遥か遠くの小さな点のような光に必死で手を伸ばそうともがいていた夏も、押入れの奥から「時代」のカセットテープを引っ張り出して、何度も何度も聴きながら明けるのを待った長い夜も、その時々には恐ろしく寒くて心細い瞬間ではあったけれど、いま振り返れば(「いい思い出」なんて、とても思えないけど)僕の人生の、かけがえのない大切なシーンだったと思えるからです。
最近、早めに人生をやめてしまうことを選択する人が増えています。
でも、僕がいま書いたようなことを思えるのは、その続きの人生を僕が生きてきたからです。そして、いまも生きているからです。
死ぬとか生きるとか、ではなくても、辛いことや難しいことに遭遇したとき、生きていくのが嫌になったり、人生をつまらないと決めてしまう人も多いような気もします。
でも、「生きていく」ことや「人生」はそもそも嫌になったり、つまらないと判断したりするようなものではないんじゃないか……。
田坂の話を聞きながら、彼と僕の人生を辿って、僕はそんなふうに思いました。
だから(まだ脱稿していないのにこういうことを書くのはとてもイレギュラーなことなのだけど)、田坂の本の最後を僕はこんなふうに結ぼうと思っています。
「生きていくということは、誰にとっても容易なことではない。
簡単な人生なんてどこにもない。
でも、だからといって、生きていくということはそんなに大それたことではない。
彼との対話を終えて、いま僕はそう力強く思っている。」
たとえ目が見えなくても、五体が満足でなくても、被差別的な出生であったとしても、それでもそれがその人の生きていくべき人生です。他と取り替えることはできません。身近な人と比べても意味はありません。
腕がなくても野球をやる人もいれば、車椅子でもサッカーをやる人もいます。
自分の運命や境遇を受け入れて、その中で頑張ったり、くじけたり、喜んだり、悩んだりする、それが生きるということだろうし、それを全うしたものが人生なのだろうと、僕は思ったのです。
だけど――それも「命」があってのことです。
この世では理不尽なことも起きます。せっかく人生が始まろうとしているのに、それを始めることもできずに、終わってしまう人生もある。
とても悲しいし、悔しいことだけど、僕はそうしたことは摂理として受け入れます。悔やみながら受け入れる。
でも、もしかしたら生きられるかもしれない、これから笑ったり、泣いたりできるかもしれない命が、目の前で揺れているのだとしたら、僕は人生を始めさせてあげたいと思います。
生きて、色んなシーンにぶつかって、色んな思いを感じてほしいと願います。
そのためには祈るだけでなく、手も差し延べたい。
御存知の方も多いと思います。
神達彩花(かんだつ・あやか)ちゃんの命を救おうとしている人たちがいます。
http://save-ayaka.com/index.html
2005年11月22日
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